コラム「社長はだれが選ぶのか?」
皆様、先月のワークのほうはできましたでしょうか?何人かのかたから「これで合っているか?」とご質問をいただきました。皆様取り組んでくださっているようでうれしく確認させていただきました。今月の機関誌では、後継者選びとこれからの時代のリーダーシップについて考えてみたいと思います。
1.社長はだれが選ぶのか?
当たり前かもしれませんが、法律的には取締役は株主総会で株主(オーナー)によって選任されます。その中で代表取締役は?というと、多くの場合、現在の代表者(社長)が「こいつに任せよう」ということで、次の代表者に禅譲する、というケースが一般的かと思います。現在、事業承継が大きな話題となっています。それはなぜかというと、実は50年前の高度経済成長までさかのぼります。70年代から80年代の高度経済成長の中、多くの企業が立ち上がりました。当時の若き経営者のかたが、時代を作りながら地域を支えるために企業を興したのです。それから50年たち、当時の若き経営者の方がちょうど70歳くらいになり、事業の後継を考えるタイミングがちょうど今なのでしょう。
時々聞かれますのが「何歳くらいで承継するのがいいのだろう?」というご質問です。もちろん年齢は社長および後継者の個人差が大きいため「何歳」という正解があるわけではありませんが、私は1つの目安として「社長70歳、後継者40歳くらいでしょうか」とお答えするようにしています。理由は次の通りです。
●社長の視点から
一番避けるべきは、相続によって事業承継されること。ただでさえ事業承継というのは難しい一大事業なのに、それをご不幸の悲しみとともに大至急行うことは、さらに困難を極めることです。時々、若い時分に先代が急逝されたために非常に苦労した、という経営者のかたの苦労話をお聞きすると、そのご苦労は並大抵ではないと思います。
●後継者の視点から
後継者としては、承継が早すぎると荷が重いですし、遅すぎると経営者としての時間が短くなるためその次の承継が難しくなります。社内の従業員が20歳から60歳とすると、40歳というのはちょうど中間地点。タイミングとしてはちょうど良いと考えます。両者をあわせて考えたのが、先の「 社長70歳、後継者40歳」説です。
2.組織リーダーシップのスタイルの変化
最近、私自身が、従来型の目標追求型の企業経営に少し疑問を感じるようになってきました。従来型の企業では、社長が「前年比○%アップ、3年後に売上○億円!」という目標を設定し、社員がそれに向かって盲進するというスタイルが、これからの少子高齢化の人口減少社会では通用しなくなるのでは、という感覚です。従来型のリーダーシップは成長市場の追い風の中で一直線に進んでいくためには強いのでしょうが、SOciety5.0と呼ばれる時代を迎えた今日のおいては、むしろ「いかに柔軟に変化できるか」という経営が必要で、変化を促すようなリーダーシップが求められると考えます。最近の統計資料をみると、世界における日本の若者の幸福度は日本は最下位に近い状態です。学力は高くても、心のIQといわれるEQ(Emotional Intelligence)は世界の平均以下のようです。なぜ日本の若者は、心貧しく、幸福感が得られず、疲れてしまっているのでしょうか?
企業のリーダーシップには2つのタイプがあります。1つがSELFリーダーシップ、もう1つがONENESSリーダーシップです。前者のSELFリーダーシップは、いわゆる「親分タイプ」。社長がすごくてスーパーマン。その社長が「この指とまれ」と目標を指し示し、社員にも「自分と同じようにする」ことを求めます。昭和のピラミッド組織がその典型です。
私の好きなマンガ「ドラゴンボール」の孫悟空のように、社長が突出した能力とパワーを持ち、会社をどんどん大きくしていく。社長がバリバリ働いて、社長が一番稼いでいるような会社がそういうイメージです。
一方で、後者のONENESSリーダーシップの特徴は、「すべては一体であり、その中に自分がいる」という共感型のリーダーシップです。同じくマンガで例えると、大ヒット漫画の「ONE PIECE(ワンピース)」をご存じでしょうか?その主人公ルフィは、「ゴム人間」という特殊能力があるわけですが、海賊船の船長なのに泳げない、という致命的な欠点を持っています。剣技はゾロが強いですし、料理はサンジの方が得意です。海図はナミの方が読めます。いわば、集まった仲間たちが、それぞれの得意分野で能力を発揮して、ルフィを支えているわけです。「海賊王になる」と主人公がルフィ叫び、それを信じて仲間が集まり、仲間同士が支え合いお宝を目指していく。これからは社員さん一人ひとりがそれぞれ個性あるスキルや経験を持った人が集まって、それぞれ自由に活躍する「ワンピース型」のリーダーシップが求められているのではないでしょうか?
3.「孫悟空」タイプの後継者が心得ること
ある100年を超える老舗企業での事例です。後継者が大手銀行勤務を経て家業に戻ってきました。従業員さんは皆さん職人気質で仕事はするものの、遅刻をしたり、気分が乗らなければ仕様と違うものを作ってみたり、大手企業出身の後継者には信じられない光景だったそうです。後継者は職人たちを無理やり一列に並べて、業務の標準化を行いました。大企業の手法よろしく、マニュアルを作りISOを取得したりされました。定型的な利益追求型で無駄な経費を削減し、トップダウンで大ナタを振るっていきました。取引先でも考えに甘いところがあれば長年のお付き合いがあっても容赦なく取引停止。社員さんは先代の会長に対して「何も知らない後継者が好き勝手にやっている」と矛先を向け、会長も社員さんと後継者の間の板挟み状態だったそうです。短期的に利益があがり決算書上は良い数字が出るようになりましたが、社内は疲弊感で一杯でした。ある日、後継者の社長は、辞表を出して辞めていく若い女子社員に尋ねます。「辞めるのは仕方ないが、うちの会社のどこが悪いのか教えてほしい」と。その女子社員の言葉に社長はハンマーでたたかれたような衝撃を受けます。「社長が上から目線で社員をバカにしながらアゴで使っているうちは絶対に良い会社にはなりません。」というのが、その女子社員さんの答えだったそうです。会社とは、「仕事を通じて成長し、成長を通じて社員さん他すべての人が幸せになること」が、会社の究極の目的です。後継者の社長さんは退職する女子社員さんからその究極を教わったのです。
4.商道の根本原則
やはり事業承継を通じて、私たちは商道の基本に立ち戻る必要があるようです。商道の基本とは「三方よし」です。売り手よし、買い手よし、世間良しということです。もう1つ、その「三方よし」を成し遂げるための基本思想が「先義後利」です。この「三方よし」と「先義後利」の2つの根本原則に立ち戻ることが重要です。その思想を後継者に伝えることが先代の大きな役割です。この根本原則はこれからのSociety5.0の時代でも決して色あせることはありません。
5.人をつくる
社会心理学者のアルフレッド・アドラーによると、次の3つの条件があると人は幸せを感じるそうです。
①自分を好きになる(自己受容)
②他人を信頼できる(他者信頼)
③自分が役立っていると感じる(他者貢献)
会社においても、ONE PIECEよろしく、社員さんが自由に活躍し、ジャズのようにしなやかに変化していく組織を目指していきたいものです。経営者の最大の仕事は「人を育てること」と言われます。その成果は、事業承継のときに最もよく現れるのではないでしょうか?政治の倫理化をとなえ日本の近代史に残る政治家の後藤新平の有名な言葉があります。
「金を残すは下、名を残すは中、人を残すは上」 さあ 経営者という素晴らしい仕事を一緒に成し遂げましょう!