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コラム「創業か守成か」

事業承継についてのコラムを順番に書いていきたいと思います。古くて新しい話題ですが、会計事務所らしい視点で取り組んでみたいと思います。お付き合いよろしくお願いします。

1.貞観政要

 事業承継といって、私たちが一番に思いつくのは学生時代に学んだ漢文の授業ではないでしょうか? 教科書に必ず載っていたのが、「貞観政要」です。貞観政要とは、唐の太宗の政治に関する言行を記録した書で、古来から帝王学の教科書とされてきました。主な内容は、太宗とそれを補佐した臣下たちとの政治問答を通して、貞観の治という非常に平和で安定した時代をもたらした治世の要諦が語られています。

 ゆえに本書は、かつては教養人の必読書であり、中国では後の歴代王朝の君主が愛読しており、日本には平安時代に古写本が伝わっています。その後、北条氏・足利氏・徳川氏ら政治の重要な役にあった者に愛読されてきました。近代でも、明治天皇はじめ渋沢栄一など多くのリーダーがこの書を手本にしてきました(ウィキペディアより加筆修正)。この「貞観政要」は大企業の経営者にもファンが多く、元ライフネット生命会長の出口治明氏(現立命館アジア太平洋大学学長)は『座右の書「貞観政要」』という著書を書いておられますし、トヨタ自動車社長、会長を務めた張富士夫氏(現相談役)も中国古典の中でこの「貞観政要」を愛読書にしている1人です。

2.創業か守成か

  「貞観政要」の中で最も有名な話が、次の一説ではないでしょうか?唐の太宗皇帝は、臣下に問いかけます。 「創業と守成のどちらが困難か?」と。

古参の番頭である房玄齢は答えます。「天下が乱れ群雄が競い合う状況では、これらを攻め、破り、従わせ、命がけで戦に勝ち抜かねばなりません。ゆえに創業のほうが困難です。」 同じようにまた若い魏徴も答えます。「帝王が新たに立つ時は人民は喜んで押し戴き、命令に服します。しかしいったん天下を手中に収めてしまえば、気持ちが緩んで驕り気ままになります。人民が食うや食わずの生活を送っていても、帝王は贅沢三昧。国家が衰えて破滅するのは、常にこういう原因によります。それゆえ、守成のほうが困難です。」

いかがでしょうか?読者の皆さんはどのように考えられますか?創業か守成か?いろいろな考えがあると思いますが、1,400年前に、太宗皇帝の答えは、次のようなものでした。

「玄齢は昔、私に従って天下を平定し、長く艱難辛苦を嘗め、九死に一生を得た。よって創業のほうが難しいと考えた。」

「魏徴は私とともに天下を安定させた。しかしこれから我々が勝手気ままな行動をとれば、必ず滅亡に向かうと憂慮している。よって守成のほうが難しいと考えた。」 「今や創業の困難は過去のものとなった。今後はお前たちとともに守成の困難を乗り越えていかねばならない。」

3.事業承継の本質

 いかがでしょうか?私は、この太宗と臣下とのやりとりに、事業承継の本質が隠れていると思います。

 まず、創業と守成の困難さは比べられない、ということです。創業には創業の、守成は守成の苦労があります。それらは別個のものであり、同時に創業者と後継者を同じモノサシで比べることもまたナンセンスなことです。

 とはいえ、事の順序として、創業があってこその守成であることは間違いありません。当たり前ですが、創業がなければ守成も存在しないわけです。ゆえに後継者は初代の創業の辛苦に思いをいたし、感謝と尊敬の念を持つべきです。私がお話する創業社長さんの多くの方も、「後継者に創業時があって今があること、その時の苦労を忘れてほしくない」とお話してくださいます。

 また太宗皇帝の言葉のとおり、創業と守成の困難さは異なるものです。先代の創業のやり方を、後継者(守成)に押し付けると失敗することが多いようです。事業承継においても、忘れてはなりません。  最後に、魏徴の弁にもありますが、創業と守成の困難さは異なりますが、それ以前に、守成の段階では、承継する会社自体がすでに大きな事業になっています。つまり、創業が立派であるほど、その守成は棘の道となるはずです。後継者は権力に麻痺してしまいがちです。また社内の部下や周辺の人間も媚び諂い、それが後継者をはだかの王様にします。後継者が失敗する最大の落とし穴はまさにこの点であるのでしょう。

4.事業承継とは「経営」そのものである

①経営にゴールは無い。

 飲食店や美容院を個人で行う個人事業主は別として、法人(会社)を前提にお話すると、一人の経営者が完走する「マラソン経営」は不可能だということです。先代の経営者がゴールを切ることは決してできません。できるとすれば廃業・倒産というBADシナリオになってしまいます。会社が続く限り、必ずいつかはバトンを渡さなければなりません。つまりは「駅伝経営」ということです。  駅伝経営では、バトンを受け継いだ後継者も、またすぐに、次のランナーへのバトンタッチを考えざるを得ません。先代に対する不平不満を言っている暇はないのです。事業承継というと高齢になった経営者が「そろそろ跡継ぎに……」と重い腰を上げるイメージかもしれませんが、実は、年齢の老若に関わらず、経営者である以上、常に頭の中になければならない課題と言えます。

②経営者としての寿命は30年

 30年以上経営者として君臨すると、後継者が育たないし、守りが強くなりすぎて、進取と堅実のバランスが悪くなってしまいます。私自身も反省するところですが、10年20年と同じことをやっていると、どうしてもマンネリになってしまいます。また自分の価値観がある以上、これまでやらなかったことをこれから新たにできるか、というとはなはだ疑問です。ついつい思想や発想が陳腐化し、時代の時流を読み誤ることになってしまいます。「時流に勝る経営はない」。経営者にはつねに新しい世代の感性が求められるのです。

ここで2つの金言をご紹介したいと思います。1つは有名な二宮尊徳、もう1つは現代の伊那食品工業です。 「遠きをはかるものは富み、近くをはかる者は貧す(二宮尊徳)」つまり良い経営とは、「植林経営」ということです。同じことを、伊那食品工業さんは、「年輪経営」という表現をされています。年輪は永続の仕組みを表しています。木は天候の悪い年でも、成長を止めません。年輪の幅は小さくなりますが、自分なりのスピードで成長していきます。「天候が悪いから成長は止めた」とは言いません。会社も一緒で、環境や人のせいにすることなく、自分でゆっくりでもいいから着実に成長していきたいものです。これが「年輪経営」の真髄です。 (伊那食品工業 塚越寛会長)

5.事業承継にあたって注意すること

承継される側がしてはいけないこと 5か条

  1. 70歳を過ぎても、社長の座を明け渡そうとしないこと
  2. 子どもに自分以上の能力を求めること
  3. 子どもが別の道についているのに、急に会社に呼び戻して、こどもの人生を狂わすこと
  4. 子どもに承継した後もいつまでも子ども扱いして、会社に首を突っ込むこと
  5. 承継してくれた子どもに感謝ができないこと

承継する側がすべきこと 5か条

  1. 承継してくれた親や先祖に感謝すること
  2. 本学(人間学)と末学(戦略戦術)のバランスをとること。頭でっかちにならないこと。
  3. 社員の不安を解消すること。そのために承継後3年間は大きな動きをしない。
    (しかし5年以上動かないのは鈍重。)
  4. 経営者としてふさわしいお金の使い方を身に着けること
  5. 独自の人脈を切り開くこと

どうやらいろいろな書物を紐解いても、経営者の最大の仕事は人を育てることである、ということに尽きるようです。

金を残すは下、名を残すは中、人を残すは上 (後藤 新平) 皆さん、事業承継を通じて、経営者という素晴らしい仕事を成し遂げながら、充実した人生をおくりましょう。

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